「はじめての文学」シリーズはなかなかよかったです。作者自身がどんな作品を選ぶのかは興味深く、さらに前書きや後書きで述べられる作者の「小説」への思いに触れることができたのは大きな収穫でした。どの作家の作品もさらに読んでみたくなりました。
「家族じまい」「にぎやかな落日」と偶然どちらも認知症を扱った小説でした。まわりの人々の大変さもさることながら、日々思考が衰えていく本人の切ない気持ちを少し覗けたような思いがしました。自分はどうなっていくのだろうと思ったり・・。
読んだ本の数:9
はじめての文学 浅田次郎
彼岸でもなく此岸でもない、その間にある静かで不思議な世界を覗かせてもらったような作品ばかりだった。夏の夜、読むのにふさわしいかもしれない。「わかりやすく書く。美しく書く。それゆえに『俗』かもしれないが『低』ではない。」と自身の作品を語る浅田次郎さんの言葉に深く納得した。
読了日:08月03日 著者:浅田 次郎
十五少年漂流記 (新潮文庫)
夏休み中の子供の気分で、半世紀以上の時を隔てて再読した。昔と変わらずワクワクドキドキして読み進める自分がなんだか嬉しい。それにしても、なんと知恵と勇気にあふれ、そして友情に熱い少年たちだろう!年長の少年たちの大人っぽさに驚く。ジュール・ヴェルヌの「海底二万里」や「80日間世界一周」も読み返してみたくなった。
読了日:08月05日 著者:ジュール・ヴェルヌ
家族じまい
なんというリアルさ!5人の女性の心理描写に疲れを感じながらも、おもしろく一気に読んだ。繋がりのある女性5人の子供時代の思い出から、終末の暮らしまで「家族じまい」というタイトルに納得。家族でいることの意味は何か、家族を本当に仕舞うことができるのか、読みながら考えてしまう。1話3話の姉妹の夫たちは私の夫と似ている。一見よい夫婦のように見えるし、彼女たちは別れない。しかし、夫に対して抱いている小さなトゲに気づく。うまく折り合いをつけながら、これからも暮らしていくのだろう。その老親や伯母の暮らしが胸に迫った。
読了日:08月09日 著者:桜木 紫乃
はじめての文学 宮本輝
「皆それぞれの心に襞を持っている。美しいもの、哀しいもの、気高いもの、醜いもの、崇高なもの、下劣なもの・・それらを、人間は誰もが等しく持っている。しかし人間は清潔でなければならない。潔くなければならない、卑怯であってはならない。」あとがきのこの言葉がいい。悪しきものを人の中に見たとき、それ以上に自分の中に見たときの憤りが乗り越えられそうだ。ストーリー以前に宮本輝さんの薫り高い描写が心地よい。これからも宮本作品を読み、宮本さんを小説の世界に導いた「あすなろ物語」も読んでみようと思う。
読了日:08月17日 著者:宮本 輝
にぎやかな落日
はじめ、文体になじめず読むのをやめようかと思った。90歳の母は頭もしっかりしているので、自分のいく末も漠然と同様だろうと思い描いていた。だから日ごと思考がぼやけていくおもちさんの日常を読んでいると心に暗雲が広がり、やはり読むのをやめようと思った。しかし、コロナ禍の現在を舞台にした今のおもちさんのラストページまで読み終え、読んでよかったと思った。考えることが難しくなり、人の世話にならなければ生きていけないときがやがて来るのだ。見守る側ではなく、思考が衰えていく側の語りは、切ないが読む価値があると思った。
読了日:08月23日 著者:朝倉 かすみ
雲の果 (光文社時代小説文庫)
あまりに濃厚で続けては読めない「弥勒シリーズ」間を開けながら読んできた今作はとりわけ終盤まで謎に包まれ面白かった。また、信次郎の辛辣さに、伊佐治ばかりか清之介までもが胸のすくような返答をするようになり、3人の関わりも一層面白くなってきた。いびつな三つ巴の3人が、「看取りたい」「看取られたい」と語り合うところは圧巻。誰の願いが叶うのか。目が離せない。
読了日:08月26日 著者:あさの あつこ
はじめての文学 重松清
「モッチン最後の1日」親の離婚によって姓が変わる前日「モッチン」として友達に挨拶をして回る望月君も、新しい呼び名を真剣に考える友達たちもいい。切なさも皆で明るく乗り越えていく少年たちの姿にキュンとした。「ウサギの日々」ではサッカーが下手でスタメンになれない先輩にユニフォームを譲ろうとした1年生を、先輩の仲間が殴りつけるのがいい。そんな思いやりは先輩に失礼だ。どちらも先輩を思っての行動であり、先輩も含め、皆そろって成長していく。重松清さんの描く少年たちから大人も学ぶものが多い。秀作揃いの短編集だった。
読了日:08月28日 著者:重松 清
犬から聞いた素敵な話 涙あふれる14の物語
図書館で目にして思わず借りてしまった本。図書館からの帰り道、犬が亡くなる話ばかりだったらどうしようと案じた。けれど、別れの話はいくつかで、人と犬の両方から見た共に暮らす喜びを綴った話が多かった。我が家と同じゴールデンが逝ってしまうところは辛かったが、どれもよい話だった。ずっと犬と暮らし続けている私としては、「人と犬の温かいつながりと感謝はどのペアも感じていますよ!」と誇りたい気持ちでもあった。ということで、シリーズになって既刊の2作目3作目はもういいかなと思った。
読了日:08月29日 著者:山口 花
つまらない住宅地のすべての家
なんのへんてつもない住宅街に女性脱獄犯が逃げ込んだかもしれないということで騒ぎが起きる。それぞれの家庭には人知れぬ問題があり、中には犯罪者になりそうな人々も。ハラハラしながら読み進めたが、ひとまず犯罪者や被害者が出なくてよかった。おまけに各家庭が抱える問題もなんとなくよい方向へ向かいそうな気配。そううまく行くかな?と思いながらも、普通の住宅街には、まぁまぁ平和な家庭がよく似合うということで・・。三谷幸喜作品を見るようなおもしろさだった。
読了日:08月30日 著者:津村 記久子