角田光代さんの赤裸々な心理描写に少し疲れた後、
私が決まって飛んでいくジャンルがあります。
江戸の町の人々を描いた物語です。
山本一力さんの作品は、
多少都合よく筋が運びすぎるかなと言うきらいはあっても、
そんなことはどうでもよくなってしまうような魅力的な人物であふれています。
明るくたくましく助け合って生きている市井の人々。
自分自身の部をわきまえて、ときにはやせ我慢もしてしまう人々。
かつて日本人はふつうにこんな風ではなかったのかしらと思える、
私達が忘れかけているものを見せてくれている気がします。
日本橋両替商の跡取り娘が、しがない寺子屋の先生との結婚を反対され、
父に勘当され長屋で貧乏暮らしをするところがこの物語の発端です。
娘は「おとうさん」と呼んでいた父をわざと「おとっつあん」と下町風に呼んで、
父をイライラさせたりします。
そんな娘が貧しい生活を助けるために髪も切り、
野菜を売り歩く棒手振(行商)になります。
表紙の絵が、子連れの棒手振の雄姿(?)です。
それを知った父の様子がいいのです。
無理に辞めさせようとか、娘を本多屋に連れ戻そう
などとは考えない思慮が木三郎にはあった。
腹を立てながらも、実のところは娘が商いを始めたことには
密かな喜びを感じていた。
見栄や外聞よりも、我が子がたくましく生きていく姿を心の中で応援している親。
意のままにしたい気持ちは押し殺し、よけいな手出しもせずに。
難しいことだけれど、そんな親になりたいものです。