クリスマス。
我が家に寅さんが帰ってきた。
S君。
長男が高校1年の時、3ヶ月半だけ同級生で部活動もいっしょだった子。
とても小さくて、気の弱そうな男の子だった。
彼は小学校が終わる頃、母を亡くした。
その後やって来た継母は、彼や長男の言葉を借りると「ものすごいヤンキー」。
弟妹がどんどん生まれ彼は居場所を失った。
あの家にだけは帰りたくないと、高校をやめ家を出たのが高1の夏休み。
1晩、仕方なく宿を貸した私は継母からおしかりの電話を受けた。
その後、実の父も含め一家は他県に転居し居場所すらわからないと言う。
彼は、東京を中心に職を転々とし、うまく行かなくなると、
今は誰も身よりのいないこの町へと帰ってくる。
わずかばかりの友を頼りに。
我が家の長男、それが彼にとっての「さくら」であり、
我が家が、思えば「とらや」になっているのかも・・・
この前彼が来たのは一昨年の今頃。
東京の仕事を辞め、職を探しに戻って来たのだという。
職探しをする間の生活は?泊まるところはどうするつもり?
問いただそうする間もなく、38~9度の高熱を出し動けなくなった。
聞けば国民健康保険にも入っていないと言う。
1週間、我が家で静養しようやく動けるようになった。
夫も、仕事のある息子も出かけた後、お粥を作り汗をかいた服を換えさせ、
世話をする私は精神的にきつかった。友が飛んできて助けてくれた。
元気になった彼に、息子が仕事と住む場所を見つけ、
夫に「しっかり働いて、結婚して自分の家族を作りなさい。」と言われ、
私は、ふとん・なべ・食品類をそろえ家を出した。
玄関でもぞもぞと何か言い、かすかに会釈をして出ていった彼。
外で息子の声がした。
「俺のお母さんにもっとちゃんとあいさつしろ。」
戻ってきた彼は今度ははっきりと
「お世話になりました。ありがとうございました。」と。
その後、息子が世話をした仕事は「きつい」と言うことで半年でやめ、
また東京へ出ていったのだという。
そして、今夜、クリスマスの晩にまた彼がやってきた。
東京で彼女ができ、彼女の部屋から工場に勤めていたのだが、
彼女と別れ、アパートを追い出されてしまったのだと言う。
今回は既に、我が家から4キロほどのパチンコ屋に住み込みで働いているという。
この10年、私は迷っている。
友達は大切に・・・そう息子には教えた。
優しさも息子の中には育てたつもりだ。
だが、私は間違っているのかもしれない。
これは「友達」か?
これは「優しさ」か?
息子にそっと尋ねてみた。
「S君は大事な友達なの?」と。
「そうだ。」と言う。
「だったらお母さんも大事にしなくちゃいけないね・・・。」
人の価値は簡単にはわからない。
第一「価値」等という言葉を使うのがまちがっているのかもしれない。
人付き合いの善し悪しもしかり。
だが、15の時、ともに過ごしたわずか3月半の時間が、
息子のこれからに暗い影を落とさなければいいが・・・
愚かな母は我が子だけを守ろうとしてしまう。
かわいそうな子なのだけど・・・
息子の居る我が家が、彼にとっての「ふるさと」なのかもしれないのだけれど・・・
10年も前の出逢いを恨みたいような気がしてしまう。
本音と建て前、心が揺れる。
長男が「さくら」なら、もう少し安心して見ていられるのだけど。
どちらかと言えば、あの子も「さくら」と言うよりは「とらさん」寄り。
「お母さんにちゃんとあいさつしろ。」
厳しくそう言った息子の感性を信じるか・・・