今日もブログ日和

犬・本・料理大好き!節約しながらエンジョイシニアライフ♪

2021年5月に読んだ本

5月最後に読んだ本カズオイシグロ「クララとお日様」は「アルプスの少女」のクララとハイジの立場を逆にした、お世話する側「クララ」の優しいお話かと思いきや・・

 

たぶん遺伝子操作なのだろう、《向上処置》と呼ばれる操作を受けた者だけに道が開かれ、受けていない者には機会が閉ざされる格差社会。加えてAF(Artificial Friend)を店で買い、子供の友とする社会が舞台の物語。現実に戻って見回せば、子供たちは生まれつきの格差を余儀なくされ、AI全盛でますます社会での位置を広めそうである。これはもしかして現代の延長線上の世界かと暗澹とする。

 

そして、もう一つの注目点は、母親が、病弱な我が子が亡くなることを予想して、AFをその子のコピーとして育てようと企てること。おぞましいと思いながら、すでに最初の子を亡くした母親のいたたまれない心情は同感できないもののわからないではない。我が子飛雄を亡くした天馬博士が悲しみのあまり作ったロボットトビオが鉄腕アトムとなったことを思い出した。

 

いや、待てよ!先代犬を亡くした悲しみに耐えきれず、同じ犬種を求めて愛してやまない今。同じなのでは・・。いや、違う!エルはエル、ケイはケイ。それぞれとの愛情で結ばれている。そして彼らには命がある。では、観察し、学び、感情も持つAFは単なるロボットなのか?命とは?と考えさせられる1冊だった。万人にお勧め・・ではないが。

「二平方メートルの世界で」「にげてさがして」を再読したくなった。

 

読んだ本の数:17


徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)徳川がつくった先進国日本 (文春文庫)
家康から家光の時代は、戦国時代の流れのまま、さらには幕府を強固なものとするために、武力による施政だった。家綱、そして綱吉の時代になってようやく「民は国の本」として人心に目が向けられるようになった。宝永地震津波・富士山噴火などを経て経済的危機に陥ったが、その後、農民たちは「量的な拡大より質的な充実」を目指した。農耕に工夫をし、それが記された書を読むために識字率も高まった。「生類憐みの令」は犬のみでなく「姥捨て・間引き」を禁じ、病人など弱者への福祉の元となった。現代社会の始まりを見るようでとても面白かった。
読了日:05月03日 著者:磯田 道史


保科正之―徳川将軍家を支えた会津藩主 (中公文庫)保科正之―徳川将軍家を支えた会津藩主 (中公文庫)
大火で焼け落ちた江戸城天守閣を再建するよりも、民の生活復興を優先させた保科正之に関心を持ちこの本を読んだ。災害に備える社倉を創設し、年金制度の先駆けとも思える90才以上の人への扶持配布など福祉の精神を形にした。一揆を起こした民の始末や、「婦人女子の言、一切聞くべからず」など疑問に思う点もあるが、文治政治の元を築いた人であった。家光の異母弟であるにもかかわらず、徳川や松平の姓を断り、養子先の保科家の繁栄に努めた。家光・家綱親子の良き参謀として多大な働きをし、現代社会の礎ともなった保科正之にはやはり惹かれる。
読了日:05月04日 著者:中村 彰彦


アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)
2年前に起きたペット惨殺事件とその結末。犯人たちと関わることになってしまった強気な琴美・女たらしの岡崎・ブータン人ドルジ。その締めくくりに微妙に途中参加することになってしまった椎名。まったく訳のわかっていない椎名の視線で、不可解なストーリーに引き込まれていく。切なく、一部、目を背けたい記述もあるのに、飄々とした軽妙な会話にいつもながら引き付けられる。ボブ・ディラン「風に吹かれて」が脳内に流れる中、心地よく読み終えた。
読了日:05月06日 著者:伊坂 幸太郎


冬天の昴 (光文社時代小説文庫)冬天の昴 (光文社時代小説文庫)
毎回引き込まれる弥勒シリーズだが、今回は面白さが際立っていた。信次郎・清之介・伊佐治それぞれのキャラクターや思惑が色濃く表れ、謎解きとしても楽しめた。男たちの陰で、お仙・おうの、ふたりの女たちが聡く凛として格好よい。悲惨なできごとや深い悲しみを乗り越えてのものだろう。それに引き換え心の置き所を見失ったお登世は哀れ。男三人の物語の今回の主役は三人の女たちのようだった。
読了日:05月11日 著者:あさの あつこ


希望病棟 (小学館文庫)希望病棟 (小学館文庫)
「後悔病棟」の続編である本作では、人の心が読める聴診器は新たな医師黒田摩周湖の手に。前作では、患者たちは亡くなっていったが、今度の患者たちは治験が功を奏しそれぞれの暮らしに戻る。児童養護施設・貧困・風俗産業・無戸籍・・と盛りだくさんなテーマで、しかもうまく行きすぎの感は否めないがおもしろかった。一番惹かれたのは、患者2人が諦めていた命が繋がったのだからと、今度は自分らしく生きるために猛進するところ。たくましく突き進む姿に、同じように病から回復した時なので、リスタートの思いを強くした。
読了日:05月12日 著者:垣谷 美雨


ちいさなちいさな王様ちいさなちいさな王様
大人向けの絵本。落ち着いた色彩の絵が、壁に飾っておきたいほど魅力的だった。大きく生まれ、だんだん小さくなり、やがて消えてしまう王様。それはまさに私たちの「想像力」と重なる。子供の頃は豊かだった想像力を、年を重ねるにしたがって知識も増え、小さく萎ませてしまっているのかもしれない。胸ポケットに小さな王様を!
読了日:05月13日 著者:アクセル ハッケ


ブランケット・ブルームの星型乗車券 (幻冬舎文庫)ブランケット・ブルームの星型乗車券 (幻冬舎文庫)
「北から勢力をのばしてきた寒気は、どうやら自らの傍若無人ぶりを反省したらしく、そろそろ撤退した方がよさそうだと、ようやく気づいたようです。」こんな天気予報が載っている、架空の都市ブランケット・シティの架空の新聞デイリー・ブランケット。その中のコラム欄を寄せ集めたという想定の本。「なるほど」と思ったり「なんのことやら?」と思ったり、一気読みとは程遠く、のんびりゆったりのつまみ食いがふさわしい。1話ごとの黒地のイラストページもオシャレでかつ愉快。寛ぎの吉田ワールド。
読了日:05月13日 著者:吉田 篤弘


二平方メートルの世界で平方メートルの世界で(小学館 
現在5年生の前田海音ちゃんが3年生の時に綴った、入院生活の作文を元にした絵本。私も半年前に入院生活を経験し、2平方メートルの広さが身に染みる。検査の辛さや、病身の不安や孤独感を、家族の苦労を思って口にしない海音ちゃん。「1日1日の大切さを・・生きていくことの素晴らしさは気づきにくいということ私は知っている」という海音ちゃん。教えられることが多かった。海音ちゃんも言われた「その苦しみに耐えられるから選ばれたんだよ」という言葉。「選ばれたくなかった」という彼女の言葉を聞くまでもなく、心ない言葉だと思う。
読了日:05月14日 著者:前田 海音


夜明けのすべて夜明けのすべて
PMS(月桂前症候群)とパニック障害の同僚ふたり。自分のことでいっぱいなのに、いつの間にかお互いの世話を焼いてしまい、徐々に自身が変わっていく。うまくいきすぎではあるものの、なぜか納得できておもしろかった。人からどう思われたいのか、どう見られているのかは気になる。そういう思いから解放されたらどんなに楽かとも思う。でも「気を遣っているわけじゃなく好きでやっている」そう思えばいいんだ。心的障害には無関係の人の心にも風穴を開けてくれそうな作品だった。
読了日:05月16日 著者:瀬尾 まいこ


パンデミックブルー(感染爆発不安)から心と体と暮らしを守る50の方法パンデミックブルー(感染爆発不安)から心と体と暮らしを守る50の方法
特に目新しい方法も見つからなかったが、とにかくいつか専門家の手によって乗り越えられると信じて暮らすことが一番のようだ。「新型コロナについては専門家に丸投げと決めましょう」いつになったらという焦りや不安感をちょっと脇に。自由にいいかげんにできる小さな楽しみを持つ。睡眠時間の質と量を大切に。今、この時だけでなく、常に心がけたいことだ。多すぎる情報に惑わされず、人にも自分にも寛容な気持ちで接するようという著者の言葉を、常に心に留めておきたい。
読了日:05月19日 著者:古賀 良彦


落花狼藉落花狼藉
江戸時代初期、吉原を拓いた庄司甚右衛門の妻花仍の目を通した吉原の変遷。苦界に身を置く女たちの哀れが描かれているのはわずかで、あくまでも創始者、そして町のまとめ役としての視点で描かれていた。見世の主たちの意地と誇りに圧倒される。想像を遥かに越える吉原の規模の大きさ、絢爛な勢いある風情に飲み込まれるようだった。興味深い吉原の仕組みに触れると共に、物語としても楽しむことができた。情景が鮮やかに目に浮かぶ、朝井まかてさんの筆致はさすがである。
読了日:05月21日 著者:朝井 まかて


にげてさがしてにげてさがして
今は特に逃げ出したいほど困った人と接していないのだけれど、その状況だったらこれは素晴らしい救いの1冊になったと思う。人にひどいことを言ったりしたりする想像力のない人からは離れて逃げること。「にげることははずかしいことでもわるいことでもない」さらに守ってくれる人、わかってくれる人を探すようにとも。それは人に限らず、本の中、映画の中にいるかもしれないと言っているのがうれしい。「さがすのをやめてしまうとにどとあえなくなってしまう/だからさがしつづけよう」全ページに深く納得できる1冊だった。
読了日:05月22日 著者:ヨシタケシンスケ


海のアトリエ海のアトリエ
ヨシタケシンスケさんの「にげてさがして」と続けて読んだのが不思議な思いだ。まさに同じ内容、居づらい場所からいっとき離れて、わかってくれる人を探す。女の子にとって絵描きさんとの出会いは、心の扉を大きく開いてくれた。なにものにもとらわれない、自由で、しかし柔らかな規則正しい流れに乗った1週間の暮らし。1編の小説にでもなりそうなところを、落ち着いた優しい絵が見事に短いページ数で物語っている。よい本に、よい作家に出会えた。
読了日:05月22日 著者:堀川理万子


英国人写真家の見た明治日本 (講談社学術文庫)英国人写真家の見た明治日本 (講談社学術文庫)
スコット南極探検隊にも同行した英国人カメラマン、ボンティングの見た120年前の日本。豊富な写真に時代の流れを感じたり、逆に今と同じ風景を見つけて驚いたり。彼は富士山の姿や登山に感銘を受け、京都や鎌倉の情景も鮮やに描写しているが、なにより印象深かったのは日本女性だったようだ。家庭を取り仕切る主婦も旅館で働く人々も、賢く強く自立心があり優しく親切・・とは、やや面はゆいようだ。戦地に赴く夫や息子を、毅然と送り出す胸の内をきちんと読んでくれたのはうれしい。伊藤博文大山捨松とも交流があり、よい滞在だったようだ。

読了日:05月13日 著者ハーバード・G・ボンティング


絵本 江戸のくらし (講談社の創作絵本)絵本 江戸のくらし (講談社の創作絵本)
妖怪たちが案内する江戸の町の暮らし。本編ももちろん楽しめたが、巻末の「江戸のくらしのまめちしき」がよかった。「付け木売り」は軽いので年配者が多く、「アサリ売り」は子供が多かった、天狗の面を背負って歩くのは金毘羅参りの人など、江戸の暮らしの知識が増えた。本の作り方、様々な行商、子供たちの遊びなど、人々が頭と体を駆使して生活していたのがうかがえる。不便なことも多かっただろうが、江戸の暮らしにはやはり魅かれる。
読了日:05月23日 著者:太田大輔


地に巣くう (光文社時代小説文庫)地に巣くう (光文社時代小説文庫)
父親の過去に触れることで、ずっと知りたかった冷酷辛辣な信次郎の生い立ちがわかるかと思ったがそうではなかった。父は父、子は子ということか。最後、清之介がついに人を切ったことに衝撃を受けた。仲間を守るためのとっさの刃だったが、これからの清之介の心の変化が気にかかる。おりんさん、清之介を守って!
読了日:05月29日 著者:あさの あつこ


クララとお日さま 

 

 

クララとお日さま(早川書房)
《向上処置》を受けた子供の将来は安定し、受けていない子供は大学進学さえ難しい世界。処置のために病弱になったジョジ―のもとに来たAF(人工親友)クララは、常にジョジ―のための最善を考え行動する。一方、母親は娘が亡くなってしまった場合のコピーとしてクララを育てようともくろんでいる。表紙も文章も優しい児童文学の様相だが、実は奥深く切ない内容だった。著者の「私を離さないで」や、亡くした子供の身代わりロボットとして作られた「鉄腕アトム」のことを思い出した。どこまでもまっすぐに皆の幸せを願うクララの清らかさが悲しい。
読了日:05月31日 著者:カズオ・イシグロ